文豪の書物置き場

文豪タウンが書いた創作物を置いています。本ブログ内の記事はすべてフィクションです。

【KRPTストーリー創作】 リビルド(再構築) -前編-

「なんじゃいお主は」

  ホテルのラウンジで原稿執筆の束の間の休息をとっていたタウンの元に静かに近づく一体のオートマトン。ホテルという場所に合わせてスーツこそ着ているが、頬の傷と殺気が残る眼は、明らかに戦場にいるべきオートマトンのそれだった。

「軍用オートマトンdaiだ。あんたの脚本はとても素晴らしい。が、それ以外のところが穴だらけだ」

「初対面にしてはとんだ口の利き方じゃな」

  タウンはただのオートマトンで無いことを見抜き少し及び腰になったが、舞台のことを悪く言われてカチンときた。タウンは舞台の出来の不十分さは自分でも自覚していただけに、余計に腹立ちが恐怖に勝った。しかし、そんなタウンの心理をよそにdaiは続けた。

「あんたに足りないのは脚本の実力以外。舞台、制作、進行、音響、諸々全部だ」

「要するに、わしが手がけた舞台はボロクソだと言いたいんか?」

「平たく言えば」

  タウンが顔の表情を怒りに変えたのを気にせず、daiは続けた。

「逆に言えば、そこをクリアすれば素晴らしい舞台になる。僕ならできる」

「は?」

「騙されたと思って僕にプロデュースをさせてくれ」

 「たいした自信じゃな。軍用のオートマトンのくせに、何をどうやって舞台をプロデュースするんじゃ?」

    予期せぬ申し出に面食らったが、恐怖心は薄れた。タウンの目は、舞台に対する何のビジョンも持ち合わせていない素人に対するそれになっていた。舞台はズブの素人が簡単に成功できる場所ではない。daiは舞台を舐めている。

「あるべき人間をあるべき場所に配置して、あるべき物をあるべき場所に配置する。軍事と一緒だよ。大方今は空賊稼業で手一杯だから、リソース配分に苦労してるんでしょ?」

  空賊稼業、という言葉にタウンは息を飲み込んだ。戦争が起きてから真っ先に削られるのは娯楽。タウンの舞台も例外ではなく、そもそも評判が芳しくない舞台にお金を出して見ようという観客はほとんどいない。結果、タウンは舞台の夢を意地だけで続けつつ、空賊稼業に手を出していた。何も持たない弱い者には手を出さないというポリシーは持っていたが、所詮は悪の中の細やかな善であり、免責されるものではない。密告されたら一巻の終わりだ。

「…そこまでわかってて、なんでわざわざ舞台に首を突っ込む?」

「面白そうだから」

  daiの回答にタウンは納得しなかった。理由は、daiの服装だった。
  軍用オートマトンに支給されるのは軍服と少々の平服ぐらいだ。わざわざスーツを買う軍用オートマトンがいるとは思えない。daiが着ているスーツが軍から支給されたものだとしたら、軍がスーツを支給する理由は1つ。軍がdaiを「スーツを着せるべき軍用オートマトン」と認識しているからだ。

「…お主、幹部候補生、場合によっちゃあそれ以上か。こんなのに首を突っ込んだら、出世を棒に振るぞ。なんでこんなもんに首を突っ込む?」

 『こんなもん』と無意識に自分を卑下していることに気付かずタウンは尋ねた。

「出世しなくても構わないよ。軍にはまだ面白いことがたくさんあるんだけど、君の脚本のほうがもっと面白そうだからね」

「軍の奴を入れるわけにはいかん。執筆と軍は相性が最悪じゃ。検閲でもされてみろ、脚本が死ぬぞ」

「じゃあ、僕が軍を退役すれば別に問題はないんじゃない?」

「問題はないな」

  軍用のオートマトンは軍事以外はからっきしだ。軍以外でできることのない軍用オートマトンが退役するわけがない。タウンは生返事を返した。

「わかった。退役する」

「そうか」

  daiの返事にうなずいたタウンは、一拍おいて気付き目を剥いた。

「退役するじゃと!?」

「退役する」

「あ…アホか!!」

「僕が軍を退役すれば問題はないとタウンは言った。つまり僕が退役すれば僕はタウンのプロデュースができる」

「待て待て、勝手に話を進めるな」

「問題は無いとタウンは言った。他に問題があるのならば何故言わない?」

 タウンは失言に気付いたが後の祭りだった。

「…わかった、確かにそうじゃな。じゃあ、退役したらまた来とくれ。こっちは原稿の締切が迫っとるから、すぐには返事ができん。お主じゃって退役はすぐにできんじゃろ?退役してから、話はそれからじゃ」

「……一理ある。退役手続を済ませてからまた来る」

「そうしとくれ」

  こういう時は、結論を先延ばしにするに限る。daiが立ち去ったの見届け、タウンは大きく溜息をついた。休憩をするためにラウンジに来たのに、執筆以上に疲れた気がした。

「フォンダンショコラ1つ。あと、ダージリンティーおかわり」

  タウンはウェイトレスを呼び、オーダーをした。甘いものを食べて心を落ち着かせないと、執筆活動に戻れそうになかった。

 

  2ヶ月後。

  daiが提出してきた「退役証明書」とdai本人を穴の開くほど見つめるタウンがいた。

「退役してきた」

  daiが提出した書類を裏返したり透かしたり筆跡を必死に鑑定したり軍に問い合わせをした結果、退役証明証が本物だとわかったタウンは頭を抱えた。

「オートマトンの考える事はさっぱりわからん…」

  結局タウンはdaiの熱意に負け、daiをプロデューサーとして迎え入れることにした。

 

  渋々daiを迎え入れたタウンだったが、次第にタウンはこの判断が正しかったと思うようになった。daiは軍の中でも際立っていた状況整理能力を活かし、舞台のプロデューサーとしてタウンをサポートした。daiのプロデュース能力は高く、スタッフの人員配置やスポンサーとの予算交渉、集客に関するアナウンスなど、 -並行してを空賊稼業を続けているにもかかわらず- 今まで足りなかったところが全て補われていった。舞台は成功し、客足も次第に増えていった。

「タウン、前売チケットが全公演完売したぞ。明日が公演初日だな。」

「dai、エピローグのセリフを書き換えた。締めのセリフがようやくできた。インプットし直してくれ」

  daiが脚本以外のほぼ全ての業務を担ってくれたおかげで、タウンは一番得意な脚本制作に注力できた。もともと脚本は評判が良かったのだが(そもそもdaiが入団したのも、タウンの脚本に惹かれてである)、注力ができるようになったおかげで、さらに脚本の質は上がっていった。しかし、執筆に集中できるようになったタウンは、より高みを目指すようになった。それは物書きの性分であり、その性分の前には時間や締切は意味をなさなかった。

「また?!一体何度変えたら気が済むんだよ!明日が公演初日だって今言ったよね!?」

「ギリギリまで粘ってこそ華が生まれる。『ラスト1マイルはミリオンダラーの分岐点』。頼むぞ」

  daiの苦情を表情一つ変えずに受け流すと、タウンは机の上に脚本を置いて、伸びをしながら事務室から去った。daiは脚本をスキャンし、演者であるノークオーツ -クオーツが無いため自由意志を持たない、いわゆる「あやつり人形」である- のオートマトン達にデータをインプットしていった。

「大体、あのアイヴィー皇太子が乗ってた飛空艇を襲った時も、タウンが『金目の飛空艇じゃ!他に取られる前に行くぞ!』って突っ走ったんだ。皇太子が乗っているなんて僕が知っていたらすぐに制止したのに、それを確認しないで舵を切るんだから…」

 daiはぶつくさ文句を言いながらインプットを続けた。余談だがdaが文句を言っているアイヴィー皇太子の件について、「情報収集能力がそれだけ高いにも関わらずそんな重大な情報を取り漏らしたdaiが悪い」というのはタウンの弁である(もちろんdaiは納得していない)。

 

「よし、全部できた」

  オートマトンのセッティングが完了し、一息をついた。明日に備えて自分にもオイルの充填をしなければ。予定停止時間より30分程度遅れてしまったが、今から休めば十分回復できる。daiは寝室に戻ることにした。

 

 

 「次世代アイギス砲?」

 「ああ。どこへでも正確に撃てる」

 「そんなもんが…どうやって?」

 「俺もわからない。だが、軍が技師を急に集めだした」

  街から少し外れたバー「New World」。脚本を書き終えタウンが一息つこうと席に座ると左側から声をかけられた。空賊仲間のオートマトン「メン」だった。再会を喜ぶ二人がお互いの近況を話し終えた後、メンが切り出した話が「次世代アイギス砲」だった。

  「軍は何を考えとる…?」

  「そんなもん、一つしか考えられねえよ」

  「クーデター…?じゃが、そんなあからさまに技師を集めたら目立つじゃろ」

  タウンが日本酒の入ったお猪口をくいと飲み干し、メンに尋ねた。

  「表向きはアイギス砲の『ア』の字も出してないし、直接技師を集めているのは通信・広報部だ。隠れ蓑といったところだ」

  「じゃとしたら、その通信・広報部が肝じゃな。無関係とは思えん」

  「それなんだよ」

  お猪口に日本酒を注ぐタウンに、メンがトーンを落として顔を近づけた。

  「…何がある?」

  日本酒を注ぎ終えたタウンは、メンに顔を向けた。

  「こいつが今の通信・広報の統括部署のトップだ」

  メンが一枚の写真を見せた。グラスのかかった黒のシルクハットをかぶり、黒の蝶ネクタイと白のワイシャツをきちっと着こなす、精悍な顔つきをしたオートマトンが写っていた。

  「切れ者じゃな」

   メンから写真を受け取ったタウンは、見落としをしてはいけないと隅から隅まで観察した。少し酒の酔いは回っていたが、油断のならない人物という判断に間違いはないと思った。

  「かわやん。ズパイク卿のパートナーだ」

  メンの言葉を聞いて、タウンの顔が険しくなった。

  「ズパイク卿が噛んでるだと…?」

  「断言はできないが、俺は無関係とは思っていない」

 声色に少しの恐怖を帯びたタウンに対し、様子を一つも変えずにメンは答えた。

  「これをお前に話したのは理由がある」

 メンは続けてタウンに告げた。

  「daiを絶対に軍に戻すな」

 

  軍も一枚岩ではないため、次世代アイギス砲の開発は順調ではない。しかし、そこに求心力の高いズパイク卿がいる状態で、状況整理能力の高いdaiが加われば、次世代アイギス砲の開発は一気に進む。それがメンの見立てだった。

「じゃが、daiは軍に戻る気は無いと言とるぞ」

「お前の脚本を気に入ってるからだろ?」

「どうしてそれを…」

「あいつは興味のあることには人一倍好奇心が強いんだよ。だから軍を抜けるなんてことが平気でできる。だが、お前の脚本以上に興味のあることができたとしたら?」

メンは表情を硬くしたタウンに告げた。

「つまり、次世代アイギス砲にわしの脚本以上の興味を持った、としたら…」

「あいつは腐っても軍用オートマトンなんだよ」

 

  最初は荒唐無稽な話と聞いていたが、ズパイク卿のパートナー・かわやんの写真、メンというかつてのdaiの部下であった軍用オートマトンの言葉、日本酒の酔い。聞き流すだけの材料をタウンは持ち合わせていなかった。

  「考えとく。明日は公演初日じゃ」

  お猪口に残っていた日本酒を食いと飲み干して、メンに礼を言いタウンはバーを出た。

 

 自分の脚本は次世代アイギス砲なんかよりずっと面白い。

 タウンはそう断言することができなかった。自分の脚本が面白いのは十分な時間を取れているからで、それはdaiが脚本以外を一手に引き受けているからだと、タウンは自覚していた。

   夜はすっかり更けて、満月の月明かりだけが道を照らしていた。翌日の講演に備えてさっさと寝るつもりだったが、少し歩いて身体を無理やり疲れさせないと、眠れそうになかった。

  タウンはどこかへ行く当てもなく、街を歩き続けた。

 

   不安を解消するには、事実をさっさとクリアにしてしまった方が良い。

   だからタウンは、公演が終わって過去最大の集客数と顧客満足度を達成したことを確認して良い気分になっているタイミングを見計らって、daiそれとなく次世代アイギスの噂を話した。

 

「ああ、前に少し聞いたことがあるよ」

  タウンの心配をよそに、daiはあっさり答えた。

「さすがにおとき話だろうなぁと思って全然そん時は気にも止めなかったけどね。まぁでも、もしできたとしたら、勢力図とかかなり変わるし面白いことになるよね」

「面白い?」

  ヒヤリとする感情を押し殺してタウンは尋ねた。

「そりゃ面白いよ。今までと全然違う世界が見えるんだから」

「そうか。……例えば、そういう軍に戻りたいと思うか?」

「ううん、今はタウンの脚本の方が面白い」

 

  タウンの背筋に冷たい汗が走った。今はタウンの脚本の方が面白い。つまり、タウンの脚本がつまらなくなったら、自分は軍に戻るつもりだと言っているに等しい。事実、面白さを求めてdaiは軍からこっちへ乗り移った。

「あいつは腐っても軍用オートマトンなんだよ」

  メンの言葉がタウンの頭の中で響いた。

  daiが軍に戻ったら、アイギス砲が完成する。そうなったら、軍がクーデターを起こす。daiが自分の脚本に惚れ込んでいる限りは、そのまま興行を続けてくれる。しかし、daiが自分の脚本を見限った時、daiは軍に戻ってしまうだろう。

   自分の脚本が、軍部の暴走を止めるための鍵だ。

  タウンは下書きしていた次回作を書き直すことに決めた。今の状態では、今回の講演を上回る事はおそらくできないと感じていた。今後、講演を上回ることができないければ、daiは軍に戻ってしまうかもしれない。タウンは勝負をする決意をした。

 

  しかし、そんなタウンの決意は全く違う形で頓挫することになる。

  クロノステラ浮遊群島で行われる、帝国とコミューンの覇権を賭けた最後の戦い。通称「人狼協定」。無作為に選ばれた13組による人狼ゲーム。

  「なんでわしらなんじゃ…」

  タウンとdaiは召集状を手に取り考えて巡らせていた。

 

中編に続く