【Day1/Stage1】
嘘は薬だ。
過度に服用したら身を滅ぼす。特に取扱には注意しなければならない類の嘘もある。そして、きちんと使うことで自分を、他人を助けることができる。
オートマトンに薬を使わせるべきか?使わせるべきに決まっている。オートマトンに嘘をつかせれば、時には人間以上に嘘をうまく使い、嘘の可能性を広げてくれるだろう。
だから、タウンはオートマトンに嘘をつかせるコミューン側の思想に共感した。
「しかし、びっくりしたわい。まさかdai以外にも軍用オートマトンが他の用途に使われとるとは。『なゆた』…じゃったかな。音楽を奏でるオートマトン、か」
「軍用のオートマトンの転用は珍しいが、無いわけじゃない。医療に介護・土木工事、軍事技術が活かせる分野は多いからな。もっとも音楽は流石に初めて聞いた」
はははと笑いながらズバイク卿は淹れたての紅茶を口にした。ジャケットを脱いだ姿が、人狼協定の時とは違う温厚な雰囲気に一役買っていた。
「改めて、今回の協定は助かった。例を言う」
「いや、わしらこそじゃ。ズパイク卿があの時霊媒と騙ってくれなければ、逆転されるところじゃった」
三人の人間を処刑し、最後は人狼と狂人が、いわゆるパワープレイと呼ばれる状態で勝った。人狼陣営の完勝と言って良い。そんな人狼協定を終えたタウンとズパイク卿は、帰りの飛空艇を待つ間の控室で紅茶を飲みながら語り合っていた。オートマトンに嘘をつかせるべきというタウンと、オートマトンとのよりよい共存を望むズパイク。人狼協定で同じ思想を持つことが確認できているので、打ち解けるのに時間はかからず、空賊と皇太子という立場の違いは障壁にならなかった。
「とはいえ、大変になるのはこれからだが」
「これから…まあ、確かにそうじゃな」
人狼協定で人狼、つまりコミューン側が勝ったとはいえ、この戦乱が即座に収まるとは二人とも思っていなかった。大勢の決着はついても、反発する勢力はまだ残っている。
「戦乱を収める方法があればいいんじゃがの」
口に出した瞬間、タウンは空賊仲間のメンの言葉を思い出した。
「次世代アイギス砲」の噂が本当なのだろうか?本当だとしたら、ズパイク卿が一枚噛んでいる可能性は高い。
タウンは少しの出来心から、試しにカマをかけてみた。
「例えば ーどこからでも狙ったところにアイギスの光を浴びせられるような兵器があれば、一発じゃろうな」
ズパイク卿の顔色を確認しようとしていることを悟られないように、あくまで空想だとでもいうようにタウンは明後日の方向を見ながら言った、つもりだった。ズパイク卿は、不意に浴びされた流言をのらりくらりと躱すには若過ぎた。はっ、とした顔をしたかと思うと、鋭い目つきでタウンを睨みつけた。だからタウンは、自分の企みが予想以上に成功『してしまった』ことを知った。
「まさか…本当に作っとるのか?」
ズパイク卿は沈黙で答えた。肯定とほぼ同義だった。タウンは身の危険を覚悟した。次世代アイギス砲は曲がりなりにも軍の機密情報だ。それを知ってて明らかにするリスクを持つ人物がいたとしたら、軍に消されたとしてもおかしくない。タウンは腹を決めてズパイク卿に語りかけた。
「…せめて、何を目指しているのか、それだけは話してくれんか?冥土の土産にしたい」
「冥土の土産?」
「偶然とはいえ、わしは軍の機密情報を知ってしまった。軍がそんな民間人を生かしとくとは思えん」
「公表する気か!?」
「いいや、公表する気は全く無い。そもそも詳細を知らんし、公表したところでただの与太話としか思われんじゃろ。じゃが」
タウンは紅茶を一口飲んで、ズパイクに言った。
「お主がそんな危険を冒してまで、何を目指そうとしているのか。それだけは聞きたいんじゃ」
「…私は、別に人を殺したいわけではない」
ズパイク卿は言葉を選びながら言った。言質を取られるのを避けるため、ではなく、眼の前の和装姿の男に、どうやったら正確に伝わるかを考えた結果だった。
「人間とオートマトンはどうやったらより良い共存ができるのか。少なくとも帝国の思想では、オートマトンとの共存には限界がある。オートマトンだけではなく、人類にとってもだ。『オートマトンには嘘をつかせるべきではない。オートマトンのような機械人形に何ができる』。全く賛同できない」
ズパイク卿の口調に少しずつ熱がこもっていった。
「オートマトンには心がある、私はそう信じている。しかし、今の帝国の政策はオートマトンに歪みを与え続けることにしかならない。オートマトンに嘘をつかせない事は、本当の心を与えていることか?…私はオートマトンに本当の心を与えたい。オートマトンと人間は、心と心のつながりを持てるはずだ」
ズパイク卿は自分の熱を冷ますかのように、すでに冷えた紅茶を一口飲んだ。
しばらくの間、沈黙が場を支配した。沈黙を破ったのはタウンだった。
「その理想には、どこからでも攻撃できる兵器が必要、ということか?」
タウンはズパイク卿の理念自体には共感を覚えた。だからこそ、次世代アイギス砲について問い正したかった。共感は人々を行動させるための強い武器だ。理念と共感は人を勇気づけ歩みを強めることを、そして過度の共感は共感以外のものを -時には理念そのものすら- 破壊し尽くして進む。
「多くの血を流れ、石を積み上げるたとしても、お主は理念のために…」
「撃たせない」
ズパイク卿はタウンの言葉を遮った。
「何かあったらアイギスを撃つ。そう言うだけでいい。実際に撃たなくても撃つのと同じくらいの効果がある」
「抑止力ということか」
「そう捉えて構わない。この戦乱を一日でも早く終わらせ、人類とオートマトンの共存を目指す」
「…それが本当に目的か?」
「そうだ」
ズパイクは正面から答えた。人狼協定の時とは違う雰囲気を纏っていた。
「…嘘はついておらんようじゃな」
「もう嘘をつく必要なんかない。そのためにここまで戦ってきたんだ」
「わかった」
タウンは乾いた喉を潤すため、すっかり冷えた紅茶を飲み干した。
「…忘れんでくれ。行き過ぎた力は、必ずお主、いや…人間もオートマトンも制御できない力になる」
ズパイクは沈黙を保った。肯定なのか否定なのか、タウンには判別がつかなかった。
【Day2/Stage1】
「ズパイク卿が石になったか」
軍服を着た男が少し安堵した様子で、石化されたオートマトンdaiを眺めながら呟いた。
「こういう言い方をしてはなんですが、ありがたいですね」
「言葉に気を付けろ」
男は部下を嗜めて、
「こういうんだ。『惜しい人を亡くしました』」
必要以上に慇懃な調子で、わかったかとでも言うような表情を部下にしてみせた。実際には都合が良いことと考えているのは、誰の目からも明らかだった。
「ありがたいことに、dai もこんな形で手に入るとは思いませんでしたね」
上官に叱られた部下も、上司を真似するようにdaiを見た。
「レイディアントクオーツか…」
上官はdaiの胸元にあるクオーツをじっと見た。
「見た感じ、他のクオーツと何も変わらんな」
「これがペルセウス砲になるのですか」
「これだけでは足りないがな」
2人はdaiのクオーツを見つめながら言葉を交わした。
「あとどれくらいのレイディアントクオーツが必要なんですか?」
「総数はわかっていないが、おそらく15だ。人狼協定に参加した、パートナーも含めて13体と、あといくつか…」
「とりあえず、9つは手に入りましたね」
「十分だ。…そろそろ時間だ、準備をするぞ」
「かしこまりました」
2人はdaiをもう一度見つめ、かつての人狼協定会場を後にした。
(ペルセウス砲だって…?)
軍役についていた頃、次世代アイギス砲の話は少しだけ聞いたことがあった。正確な名称は知らなかったが、二人が話していた「ペルセウス砲」がおそらくそれなのだろう、とdaiは当たりをつけた。ペルセウス砲は特殊なクオーツが必要で、そのクオーツを集めることが現実的でないため実現はされないだろう、という当時の見解を思い出した。
(軍は、ペルセウス砲を本気で作ろうとしているのか…)
daiの背筋に、ぞっとした感覚が走った。それは完成した時に起こり得る惨劇をイメージした恐怖と、完成に向けての好奇心からなる面白さが入り混じったものだった。2つの感覚のうち、わずかに恐怖が勝った。
(ペルセウス砲の開発をどうやったら止められる?考えろ、考えるんだ)
daiは胸のクオーツに意識を集中させ、実のある結論を出そうと演算を続けた。しかし演算を続けたところで、石になった体では意識があっても意思を伝えることもできなければ、身体を動かすこともできなかった。
(誰かに伝える方法は無いのか??)
(どうやったら身体を動かせる??)
daiは演算を続けたが、いつまで経っても演算は終わらなかった。石になったdaiがペルセウス砲の開発を止める方法は、演算で導き出すには計算量が大き過ぎた。dai以外の人物がペルセウス砲を止める方法は突き止められたが、それを伝える方法を導き出すための演算も大き過ぎた。
そして、ペルセウス砲は火を噴いた。
【Day1/Stage4】
「ズパイク卿が石になったか」
軍服を着た男が少し安堵した様子で、石化されたオートマトンdaiを眺めながら呟いた。
「こういう言い方をしてはなんですが、ありがたいですね」
「言葉に気を付けろ」
男は部下を嗜めて、
「こういうんだ。『惜しい人を亡くしました』」
必要以上に慇懃な調子で、わかったかとでも言うような表情を部下にしてみせた。実際には都合が良いことと考えているのは、誰の目からも明らかだった。
「ありがたいことに、dai もこんな形で手に入るとは思いませんでしたね」
上官に叱られた部下も、上司を真似するようにdaiを見た。
「レイディアントクオーツか…」
上官はdaiの胸元にあるクオーツをじっと見た。
「見た感じ、他のクオーツと何も変わらんな」
「これがペルセウス砲になるのですか」
「これだけでは足りないがな」
2人はdaiのクオーツを見つめながら言葉を交わした。
「あとどれくらいのレイディアントクオーツが必要なんですか?」
「総数はわかっていないが、おそらく15だ。人狼協定に参加した、パートナーも含めて13体と、あといくつか…」
「とりあえず、11個はは手に入りましたね」
「十分だ。…そろそろ時間だ、準備をするぞ」
「かしこまりました」
2人はdaiをもう一度見つめ、かつての人狼協定会場を後にした。
(デジャヴ…オートマトンにも起こりうるのか…?)
daiは石化された体で、自分が感じた違和感の正体を必死に突き止めようとしていた。この光景はどこかで見たことがある。そう感じた瞬間、人狼協定をめぐる出来事に既視感があるように感じられた。人狼協定にどちらが出るかでタウンと揉めたこと、タウンが人狼協定で活躍して帰ってきたこと、自分が負けて石になったこと。しかし「自分が石になる」ことについてdaiが既視感を持つ理由はわからなかった。
(僕のクオーツが必要だって言ってたよな…まさか、僕のクオーツがあいつらの言ってた「レイディアントクオーツ」なのか…?)
daiは上官の言葉を思い出し、自分のクオーツに何かヒントは無いか、クオーツに意識を集中させて演算を始めた。すると、自分の意識が胸元のクオーツにすうと吸い込まれていく感覚に襲われた。
daiは兵器工場に居た。
(な、なんだここ!?)
びっくりして叫びそうになったが、声が出なかった。その兵器工場には見覚えがあった。入隊する少し前に見学させられた兵器工場。ここでdaiは生まれたのだという上官からの説明。間違いなかった。daiが誕生した兵器工場だった。しかし、なぜ自分が突然こんなところにいるのか、daiにはわけが分からなかった。
daiは視界をグルリと一周させて、一通りの状況を把握した。自分の手足が視界に入らず、手足を動かそうと思っても手応えがなく動かせないこと、しかし視界は前後左右に動かせるので「移動」はできること。
(よくわからないけど、思念体みたいな感じになってるってことかな)
なぜこんな事になっているのかは分からなかったが、こうなっている理由よりも、工場を探索したほうが手がかりは掴めるとdaiは判断し、探索を開始した。ほどなく、手がかりは見つかった。工場の北側にある、同じようなドアが並ぶ「軍用オートマトントレーニングセンター」。一つだけ、巨大なダイヤル式の南京錠と鎖で塞がれたドアがあった。
(露骨に怪しいな。謎を解くにはこれを解かないとダメってことか)
しかし、daiがそう考えた瞬間、南京錠が大きな音を立てて真っ二つに割れ、扉を封鎖していた鎖が解け、バラバラと派手な音を立てて地面に落ちた。
(な、なんだ!?)
daiはしばらく呆然と立ち尽くす -もっとも、思念体なのでじっとしていただけだが- 手がかりを探すために扉の中に入った。
そして、ペルセウス砲は火を噴いた。
【Day1/Stage2】
「さすがじゃな。無事に帰って来たか」
タウンは軽くため息をつきながら、人狼協定に勝利し帰還したdaiを迎え入れた。
「当然だよ。一つ一つ論理的に考えていけば難しい事は何もない。もっとも、いつ自分が人狼に襲撃されるかは注意を払わないといけなかったけどね」
daiは少しほつれのできたデニムジャケットを脱ぐと近くの椅子に座り、ブラックコーヒーを飲んだ。オートマトンがブラックコーヒーを飲む姿は、オイルを補給するそれのようにも見えた。
「ともあれ無事に帰ってきてくれて良かったわい。しかし、コミューン側の奴らは何と言っとったんじゃ?」
「残念ながら面白い話は全くなかったよ」
daiは少しふてくされたように答えた。
「オートマトンにも嘘をつかせる自由を与えるべきという思想はあるけど、結局その嘘の質と影響が担保されるどうか、全然分からない。そもそも嘘をつかせることがオートマトンの自由とどういう風にリンクするのか、全然わからない。嘘をつかなくても自由なんて全然あるよ。僕は嘘なしでもやっていけるし」
daiが嘘をつくことができれば、例えばわざと締切日を早くすることで進行を楽にするといったテクニックが使える。しかしそれをdaiに告げることに何のメリットもなかったので、タウンは黙ってdaiの話を聞いていた。
「それよりも」
「それよりも?」
「さっさとこの戦争を終わらせた方が良いよ」
daiは、人狼協定の中で出会った「なゆた&ガド」と「ティラノ&モリブン」のことを思い出していた。
「タウン、確か次の脚本ってサーカス団が舞台じゃなかったっけ?」
「そうじゃが、それがどうかしたのか?」
「タウン、提案がある」
「何じゃぁ、改まって」
舞台に関して、脚本・演出はタウンが、それ以外はdaiが担当しており、お互いの仕事内容について相談する事はあまりなかった(だからというわけでもないが、タウンは遠慮なくdaiに原稿の書き直しを告げるし、daiはしぶしぶ受けれている)
「今度の舞台、クオーツを持ったオートマトンを入れない?」
「オートマトンを?どういう風の吹きまじゃ?」
クオーツを持たないオートマトン -いわゆる「からくり人形」と言って良い- に素早くデータをインプットできるのは、daiの強みの1つだった。しかし、クオーツを持っているオートマトンは、意志があるのでインプット作業は必要ない、というよりできない。なぜかと訝しむタウンに対して、daiは続けた。
「娯楽は戦争で真っ先にダメージを受けることがよくわかった。でも娯楽と同じくらいダメージを受けるものはあるんだ。芸術だよ」
「ずいぶん殊勝なことを言うのぉ…」
軍用オートマトンということもあるが、daiはあまり芸術や人文といったことに明るくは無いはずだった。そのdaiが「芸術」という言葉を出すことに不思議がりながらも、タウンは興味を持って続きを促した。
「『なゆた』という元軍用オートマトンの音楽家がいた。『モリブン』と言う曲芸師オートマトンがいた。芸術も、演劇以外の娯楽も、ダメージを受けていた。…今こそ力を合わせる時だ」
「お主も言うようになったのう。じゃが、仮にそいつらを舞台に出すとして、クオーツ持ちのオートマトンのメンテナンスとやらはどうする?わしはお主の面倒は見ることはできても、他のオートマトンは勝手がわからん。お手上げじゃ」
「安心して良いよ。『もののふ』という優秀なオータスがいた。もののふに協力を頼んでみようと思う」
「受けてもらえるという、当てはあるのか?」
「この戦いを終わらせるためなら、手伝ってくれる」
確信を持ってdaiはタウンに告げた。
「この世界はループしていて、15個のレイディアントクオーツが1つにまとまるために 動いている」
daiは思念体となった自分が見た光景を思い出していた。南京錠のかかった部屋の中にあった巨大なモノリスに書かれたメッセージ。モノリスにアクセスした瞬間、これはdai自身が導き出した結論なのだということを知った。完全には納得しなかったが、自分が経験してないはずの「思念体となった光景」をなぜかすんなり思い出せたことを考えると、そのとおりだと考えざるを得なかった。
だが、だとしたら「15個のレイディアントクオーツが1つにまとまる」とはどういうことなんだろう?ペルセウス砲を開発するためだけに、この人狼協定が行われている?daiは納得ができなかった。確かに自分は軍用オートマトンだが、それ以外の人狼協定に参加していたオートマトンは軍用オートマトンではないし、なゆたのように軍用オートマトンにも関わらず別の用途に使われるオートマトンもいる。軍用以外の多種多様なオートマトンが、凶悪な兵器であるペルセウス砲に集約される?
少し考えた結果、daiは「レイディアントクオーツが1つになるのは、ペルセウス砲という形ではなく別の形で一つになるべき」という結論を出した。幸い、自分自身もタウンも、人狼協定を生き残ってまだ生きている。今までdaiが経験してた、ループしていた世界とは違う。戦いが終わったのだから、あるべき人をあるべき場所に配置する。そうすれば、人々は自分自身の力を発揮できる。そうすれば、戦争は終わり、ペルセウス砲も開発されないで済む。
daiはそう信じて、芝居の計画書を書き始めた。
そして、ペルセウス砲は火を噴いた。
「僕が出るべきだ」
「いや、わしが出るべきじゃ」
10分ぐらい、daiとタウンは言い争いを続けていた。クロノステラ浮遊群島で行われる、帝国とコミューンの覇権を賭けた戦い、通称「人狼協定」。無作為に選ばれた人類とオートマトンの13組のパートナーに選ばれた二人は、どちらが人狼協定に出場するべきか、お互い譲らず言い争いを続けていた。
「ゲーム的に論理的な思考が必要になる。僕の方が適している」
「いいや、論理的思考力以上に人を信じる力、人を説得する力が必要になる。ストーリーが構築できないと人を説得することはできない。わしが出るべきじゃ」
daiは自分を出して欲しいと必死に説得したが、タウンは一歩も譲らなかった。
(脚本以外のことで、なんでこんな頑なに譲らないんだ…?)
daiにはタウンの考えていることがわからなかった。結局daiは根負けして、タウンが人狼協定に出ることを渋々承諾した。
「タウン」
「なんじゃい」
「…次回作の脚本が必要だ。必ず生きて帰ってよ」
「わかっとるわい、そんなこと」
「どうじゃぁ、恐れ入ったか!!」
daiは人狼協定から意気揚々と帰ってきたタウンを苦々しげに見つめていた。
「確かに最初は疑われとった。しかしな、一つ一つ丁寧に言葉を紡いで、最後はきちんと信用を勝ち取って、人狼3匹を倒して勝利に導いたわい」
はははとタウンは笑いながらdaiの肩をバンバンと勢いよく叩いた。
「ずいぶん調子に乗ってるね」
露骨に嫌な顔しながらdaiはタウンの手を払った。タウンは手を払われても、どこ吹く風とばかりに高いテンションを保ちながら話を続けた。
「やっぱりわしが行って正解じゃったな。dai、脚本書くから外しとくれ」
「珍しいね」
普段脚本が書けない書けないと言ってひたすら締切を引き延ばしているタウンから出た言葉とは思えず、daiは少し驚いてタウンを見た。
「言っちゃ悪いが、あれはドラマじゃ」
「ドラマ?人狼協定が?」
「人と人とが言葉を紡ぎ、時には疑い、時には信じて、1つの目的にたどり着く。これは、良いドラマが生まれるぞ。名作の予感じゃ」
「ふーん…まあいいけど」
daiは原稿に集中してくれるなら、と執務室を後にした。
(何かがおかしい…)
タウンは戦いの最中から違和感を覚えていた。どちらが人狼協定に出るかでdaiと10分以上言い争っていたこと、人狼協定で帝国側に着いて戦ったこと。最初はただのデジャヴかと思っていたが、記憶を探ると、なぜかコミューン側として戦う自分自身の姿もありありと想起できた。
(…この世界がループしている?)
何の気なしに、そんな仮説を考えてみた。しかし、「世界がループしている」ことについて考えたところで、証明ができるとはタウンには思えなかった。
(…いや。「世界がループしている」という発想は悪くない…)
仮説の立証を止めたタウンが次に考えた事は、今の仮説を次の舞台の脚本の原案にすることだった。
(…例えば主人公が世界がループしてることに気付いて、最悪の結末を止めるために動く…)
原型が決まると、アイデアが次第に膨らんできた。まだ粗は多いし設定・キャラクターは固まっていないが、それは書きながら整形していけばよい。
(…いける!! )
タウンは原稿用紙に万年筆を走らせていった。分量はまだまだ足りないが、書けば書くほどテーマがクリアになっていくのを感じた。
この世界はループしていて、15個のレイディアントクオーツがペルセウス砲という兵器になるのを防ぐためにオートマトンたちがループする世界の中で戦う。登場人物のキャラクター設定や物語の背景などは、まさに自分が参加した人狼協定を参考にすればよい。
タウンは自分のプロットに満足していた。
久々に徹夜して一気に書き上げようと、タウンは一晩中原稿を書き続けた。
そして、ペルセウス砲は火を噴いた。