遅くなりましたが、先日参加した短編小説の集い「のべらっくす」の参加作品の感想を書きます。
医者との会話、 湯船での考え事、病気の発端とシーンの転換がはっきりしていて、会話もテンポよくスイスイと読みやすい物語でした。それだけにオチは予測して無くて「うわ、そっちか!」と一本取られたという感想を抱きました。凛子さんが可愛いです。
あと個人的に、
水面から出ている膝のふたつの山を見る。 胸がドキドキと鼓動を打っている。 耳や頬のてっぺんがポーっと熱を帯びている。 「のぼせちゃったかな」と思いながら、ゆっくり湯船から身体を引き上げた。
ある可哀想な右手の顛末。/【第25回】短編小説の集い(今回のお題は病) - 百三十五年丸ノ内線
ここの「膝のふたつの山」から始まる、お風呂に使って考え事をしている描写がとても好きです。
ある病がきっかけで誕生した新人類シンクロン。彼らのお陰で世界は争いのない平和な世界が築かれるが、シンクロンとなった神代暁はある病気に罹患し、シンクロンを人類に戻す薬を発明する。神代がそうせざるを得なかった難病とは?
とにかく着想が素晴らしいです。設定はSFなんですが、人間が神格化された悲劇というのは、シンクロンに限らず現実世界にもありうるのかなと思いました。
この世界において、シンクロンは理想の人間像であり神であった。
【第25回】短編小説の集い 投稿作品 『シンクロン』 - ロゴスエモ
短編小説だから仕方ないのですが、もっと深掘りした詳細なストーリーを読みたいなあと思える一作でした。
今回のお題「病」にストレートに呼応した作品だと思います。本当に病気の話と思いきや、だんだん話が読めてくるのが読者と咲の目線を合わせる形になっていて、コメディとして良いです。読み終わった後、タイトルをもう一度読んで爽やかな読後感を味わえました。
「というわけで、咲隊員、一緒に委員長しばきに行こう!」
友達と天然は青春の華 第25回短編小説の集い「病」 - 泡沫のユメ
それにしても、この手の話は現実世界にあるのでしょうか、と思う男子校出身者。
これは怖い。一人称の独白が続きどんな展開になるのかと思っていたら、静かな復讐劇を乗り越える話とは。確かにこれは一人称じゃないと成り立たないですね。後半、日記を渡されてから謎がスルスルと解かれていくところがヒヤリとしながらも面白く読み進められました。
悲しい結末だけど、こういうのは大なり小なりある話なんだろうなあ。
これから私がどう生きていくかはわかりませんが、まずは両親や祖父と真剣に向き合って行こうと考えています。祖母のことは未だに夢に見るほど好きなのですが、少しずつ忘れていかなければならないことは頭で理解しています。
満ち足りない ~短編小説の集い~ - さよならドルバッキー
大好きな祖母と別れなければならないことを受け入れる決意が悲しいです。
クトゥルフというブログタイトルから呪いとかのホラーだと勝手に先入観を抱いていたいので、オチにやられました。楽しいミステリー。
あと、作者のなおなおさんが書いてたトリック、ちゃんと気付けてがちょっと嬉しかったです。息切れしているし里美ちゃんが来ていて「さ・・ちゃん」と行ってるから、てっきり同じ人かと思いきや。
その原因かどうかと言われると自信がなかったが、その不調は確かに先週末に幼馴染のさっちゃんと廃病院に探検に行った後から起こるようになった。
【第25回】短編小説の集い「心を蝕む」 - なおなおのクトゥルフ神話TRPG
バッチリ原因でしたね。吊り橋効果。
「中学時代のあだ名は黒子、もしくはステルス」
「いつものTHE・忍者な俺どうした!?」
などなど、随所にあるフレーズが小気味よくて一気に読みました。演劇病というフィクションの病を元に、少年が抱く葛藤や恐怖を乗り越えるストーリー。1人で戦っていた漱也が戦いを終わらせる話、と読みました。心の中の戦いを終わらせるには、誰かに助けを求めるというのは、なんだか分かる気がします。
当時大好きだったゲーム「メタルギアソリッド」のスネークのような最強のスパイに生まれ変わったはずだったのに…。
第25回短編小説の集い参加作品ー演劇病 - 小説をちゃんと書こう
メタルギアソリッドが出た時は、僕はもう大学生だったからこういうことはなかったけど、小学生だったら絶対真似していたし、心の中でなりきっていたと思う。
宇宙船団のリュウが病気になったルナを助けるために地底人に助けを求めるSF。リュウの必死さが悲しく、あまり明るい結末にはならなそうだと読み進めていました。エピローグでルナが地底人であったことは明かされるのですが、全部は明らかにならず、切ない読後感が味わえました。推測ですが、薬は地底人化するのを抑えるための薬で、ルナは観測という目的を離れてリュウに惹かれたのかな、と。
的確なアドバイスになるかどうかはわかりませんが、リュウがルナを必死で思っているのは冒頭などでもわかるので、地底に行くまで医師を探したりする下りはある程度カットして他の要素を膨らましたほうが、より話が鮮明になるのかなと思いました。
うーわー、辛いなあという凡庸な感想しか出せないくらい、描写がエグくて、加奈子と加奈子の母親が置かれた立場が辛すぎました。この物語はフィクションですが、もしこの通りの事件が発生したら、きっとこの通りの話になるのだろうとしか思えません。
一体誰が、加奈子を裁けるのだろう? 性被害者がやり返すことに対し、それがどうしてだめなのかを説明できる人がいるのだろうか。きっと、母親が生きている間中、加奈子の起こした事件は「さまざまな立場の人が議論するだけ」で終わる。加奈子は議論の真ん中に置かれているが、もう心はここにない。それが性被害によるものか、単に加奈子が狂ったのか、それがわかったところでもうどうしようもない。
【第25回 短編小説の集い参加作】白い部屋で彼女は - novelsのブログ
議論しても結論が出せない事は、 どうやったら乗り越えられるのだろう。
おっさんとして興味深く読みました。入院して自分たちが通常の社会から隔離された存在になって、いままでやってきたことができなくなったりした時、どんなことを思い何をするのか。
だから、小杉さんが看護師さんたちに声をかけるのも、異常な状態か、人寂しいかどちらなのだと思う。話を聞いていて、後者である気がした。あの看護師さんに説明してもわからないと思うが。 私はもう少し熱心に小杉さんにつきあってあげようと思った。
第二十五回 短編小説の集い参加作品「入院中の出来事」 - 明日は明日の風が吹く
僕は両方だと思いました。人寂しいのはその通りだけど、社会から隔離されて、カメラマンも諦めようとする事態、関わりを持てる人は主人公のような入院患者と看護師ぐらい。普段とは違う異常事態。普段の小杉さんは人寂しくてもそこまで話しかけないのでは、と想像しました。
その距離の近さとは、体育会系の部活の先輩・後輩のようなものだった。だから、男としてはそれほど不快でもない。もちろん、体調が万全ならば。患者はみな、少し痛みなどがなくなり、血液検査の数値に異常がなくなると、自分は完全に復調したと思い込む。退院したら、何かすごいことをしてやろうと思う。短期入院などではそうだろうが、長期の入院になれば、退院直後は、外界に身体をならすことくらいしかできない。入院中は自分がどれだけ保護されているかが、退院すると身にしみてわかる。
第二十五回 短編小説の集い参加作品「入院中の出来事」 - 明日は明日の風が吹く
意見の全部には同意できないけど、この辺の語り口はとても良いです。
最後に自分の作品の振り返りを。
タイトルが先に決まりました。「あの人」というフレーズを妻側の人に言わせて、夫との距離が遠いことを意識させようと思いました。父親と子供が同じように小説を書くという着想はあったのですが、どうやって病気とリンクさせようか悩んだ結果、少しずつ喘息を悪化させて物書きにのめり込むことにしました。
劇中作は龍一が会社勤めの経験をもとに書いた小説ですが、もっと劇中作であることを明示したほうが良かったですね。
ちなみに作中の「ベルベラ」は、喘息薬「レルベア」のもじりです。
実在する薬品だから名称をそのまま使うのは避けたのですが、使っても良かったかな。
以上、振り返りでした。今月もできれば参加したい所存。
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