文豪の書物置き場

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また苔が生えてくるその日まで(2) 墓守との邂逅

(どうしよう……。)
 キンバリーは焦っていた。墓地の探索に夢中になるあまり、日が暮れていることに気づかなかった。慌てて出口に引き返そうとしたが、どこで道を間違えたのか一向に辿りつけなかった。そうこうしているうちに辺りの闇はより一層深くなっていった。このままでは辺りすら見えなくなり、進むことすらできなくなるだろう。
(どうしよう、このままじゃ……あ!)
 記憶が確かなら。キンバリーは鞄の中を探った。
「あった!!」
 キンバリーはカバンの中からマッチを取り出した。火魔法用の小道具として鞄の中に入れていたマッチだ。
 「…わ、我が精霊よ、その力を宿せ!」
 キンバリーは夜の墓地という恐怖を打ち消すために、自作の呪文を唱えマッチを擦り灯籠に火をつけた。辺りが明るくなった。マッチはまだ残っている。これなら灯籠に火をつけていくことで墓地の出口までたどり着けるだろう。
 (怖くない怖くない、精霊たちがついてるから怖くない怖くない……)
 日はすっかり暮れて、月明かりと灯籠だけがキンバリーの進む道を照らしていた。灯篭に火を灯しながらキンバリーは進んでいったが、なかなか往路で見た記憶のある風景が現れず、キンバリーは不安になった。
 あれだけあったはずのマッチはいつのまにか半分になっていた。記憶を頼りに道を曲がると、正面に大きな墓が見えた。そして、墓の後ろには塀があった。行き止まりだった。
「嘘でしょ……。」
 これまで散々歩いたのが無駄だったことに絶望し、キンバリーはその場にへたり込んでしまった。しかしその瞬間、墓下から何かが光っているのが見えた。
(え、何か光ってる…?)
 光の正体を探ろうと、キンバリーは近くの灯篭に火をつけて素手で墓下の土を掘っていった。光っているものの正体はすぐにわかった。苔が灯籠の明かりを反射し、鈍くエメラルド色の光を放っていた。
(光る苔なんてあるんだ……)
 キンバリーは疲れも忘れて、光る苔に見入っていた。だから、背後の気配に全く気づかなかった。
 

「誰じゃあ!!!!」

「ぎゃあああああ!!!!!」

 

 突如として背後から響いた怒鳴り声にビクリと体を震わせバランスを崩し、墓に背を預ける形でへたり込んだ。怒鳴り声を上げて威嚇したその男は、そんなキンバリーの顔をカンテラの灯りで照らし訝しげに尋ねた。キンバリーはそれが誰だかわかった。この墓地の入り口にある管理人室で見た男。墓地の管理をしている墓守のフランクだった。

「あ、あの、キンバリーって言います、私!!私、道に迷っちゃって、それで……」
「なんじゃ、ただの迷子かい。遅くまで何やってんじゃ、おんしは……うん?」
 ややパニックに陥りながらも必死で弁明するキンバリーの様子に「ただの迷子か」と納得しかけたフランクは、キンバリーの手についていた光る苔を見て表情を固くした。
「おい、その手は何じゃ?」
「え、あ、これは……」
「墓を漁ったのか?」
「え、ええと苔が光ってて、それで……」
 突然詰問する調子に変わったフランクに戸惑いながらキンバリーは答えた。しかし、その答えにフランクは納得しなかった。
「墓を漁ったのか、と聞いているんじゃ!」
「あ、漁ってません!苔が光っていたから、それで珍しかったから!!」
 口調が更にきつくなるフランクに動揺しながら、キンバリーは自分が墓荒らしなどしていないことを説明した。しかし、フランクは相変わらずぎろりとキンバリーを睨み尋ねた。
「そもそも、こんな時間までうろついているもんじゃない。一体何をやってたんじゃ」
「ですから、道に迷って……」
「道に迷って、たまたま賢者様のお墓に来たということかい?」
「賢者様のお墓?」
「何じゃい。本当に道に迷ってここに来たんかい」
 キンバリーが聞き返すと、ようやく納得したのかフランクの表情が少し呆れたような表情に変わった。きつい表情ではなくなりキンバリーは安心したが、バカにされたようにも思えていい気分はしなかった。
 「これ、賢者様のお墓なんですか?」
 「最近の若いもんは賢者様の墓も知らんのか」
 「こんなところにあったんですね…」 
 キンバリーは振り返りその墓を見つめた。灯籠の他にフランクの灯りもあったため、先程よりは墓の様子がくっきり見えた。賢者様のお墓と聞き、もっとよく知りたいと墓石に彫られた文字を読みたかったが、フランクに怒られそうな気がしたので止めておいた。
 「知ってる奴がおると思ったらトレジャーハンターかなんか知らんが、墓荒しばっかりじゃ」
 確かに普通の人間は、夜遅くにこんな墓地の奥深くまで行かない。自分が墓荒しと間違えられ怒られたことは不満だったが、理解はできた。しかし、墓荒しが来るということは。
 「賢者様のお墓ってことは、何か眠っているんですか?」
 「賢者様に決まっとるじゃろ!アホか!!」
 うっかり好奇心満々で尋ねたキンバリーをフランクは一喝した。考えてみれば、何か眠っていたとしても墓守が素直に教えてくれるわけがなかった。かくしてキンバリーは、墓地の出口までフランクの説教を受けながら帰るハメになった。出口に辿り着く頃には、キンバリーは心身ともにクタクタになっていた。
 
 (夜遅くなっちゃったから、キャメロンにも怒られるな……)
 フランクにも怒られキャメロンにも怒られるというダブルパンチに憂鬱になりながらキンバリーは帰宅したが、家に灯りはついていなかった。もうキャメロンは寝てしまったのだろうかと思い、静かに鍵を開け家に入った。しかしキャメロンは自室にいなかった。
 (まだ帰ってきてないのかな……?)
 キャメロンはマドックの診療所に遅くまで詰めることがあったが、それでもここまで遅くなるというのは今まで無かった。さすがに少し心配になったが、それよりキャメロンに怒られなかったことを安堵しながら、キンバリーは眠りについた。
 
【続く】